3月16日、第8回マリインスキー国際バレエフェスティバル4日目。その舞台で、ABTプリンシパル、ジリアン・マーフィーが、アンドリアン・ファジェーエフと共演。マリインスキー劇場デビュー公演「白鳥の湖」全幕を披露しました。
彼女のオデットは、気高い白鳥の女王である前に、1人の清らかな乙女としての姿が先にたっているように見えます。繊細な感受性を持ち、全身から醸し出される雰囲気はやわらかく温かみがあるもの。しかしそこには常に、抗うことの出来ない運命に対する悲しみも強く感じられます。マーフィーは、登場の瞬間からオデットの心の細かな動きを丁寧に掬い取り、その雄弁な上半身の動きで、それを見事に表現することに成功していたと言えるでしょう。
第1幕第2場、1点の曇りもなく王子を信頼し、彼の腕にすがるように身を委ねて踊るグラン・アダージョは、どこまでも情緒的で印象深く、この場最後の別れのシーンでは、ファジェーエフの見事な演技もあり、胸を締め付けられるような切なさを呼び起こされました。
第3幕になると、さらに悲愴感を濃くまとうようになりましたが、それに比例して、王子への抑えきれない愛情がより一層強まっていくように見えました。
Photo:N.Razina
それに対し第2幕で宮殿の広間に現れたオディールは、王子を騙すためにロットバルトに連れて来られただけとはいうものの、王子との心の駆け引きゲームを心底楽しんでいるかのよう。手を差し出しては引っ込め、目線を合わせては反らせ、他人であるオデットの“真似”をしてみせ・・・真っ向から挑戦してくるオディールに吸い寄せられていく王子の様子が、鮮やかに描き出されました。
グラン・パ・ド・ドゥのコーダで披露される全幕を通してのテクニック的な見せ場、グラン・フェッテ・アントゥールナンは、両腕を上にあげてのダブルに、トリプルまでも交えての華やかなものでした。
Photo:N.Razina
慣れない土地、舞踊スタイルの違い、225年の伝統を誇る劇場の代名詞K.セルゲイエフ版「白鳥の湖」・・・想像しうるプレッシャーの原因は限りなくありました。実際に、リハーサル開始当初、なかなかこの舞台の床に慣れることが出来ず、大変な苦労があったそう。そのような苦労を乗り越えて、満席の劇場から送られた大きな拍手と「ブラボー」の声の中で、ほっとしたように微笑みあうマーフィーとファジェーエフの姿が、とても美しく光り輝いて見えました。
レポート: チアトラールカ