収録:1999年
出演:ジュリー・ケント、イーサン・スティーフェル、ウラジーミル・マラーホフ、アンヘル・コレーラ、ホアキン・デ・ルース、パロマ・ヘレーラ
発売:ワーナーミュージック・ジャパン
《海賊》というと、日本ではマリインスキー・バレエのピョートル・グーセフ版がおなじみ。最近では、熊川哲也がKバレエで新版を発表して話題になった。荒唐無稽な冒険活劇調ストーリーと異国情緒、豪華なセット、華麗な踊りと、《ドン・キホーテ》とならんで古典バレエの娯楽性が満喫できる、ロシア系のバレエ団以外ではめったに取り上げられないのが不思議なくらいの楽しいスペクタクル・バレエだ。
ABTのコンスタンチン・セルゲーエフ版は、グーセフ版と主要登場人物、大まかな筋書きは同じだが、プロローグとエピローグの設定が逆だ。グーセフ版では船が難破して、海賊たちが陸に流れ着いたところから物語が始まり、最後、海賊は娘たちを連れて意気揚々と船出する。セルゲーエフ版では海賊は物見遊山的にトルコに着き、騒動の後、海に出たものの嵐にあって難破し、コンラッドとメドーラのカップルのみが生き延びる。この設定は1856年初演時の台本にのっとっているが、ハッピーエンドの楽天的な物語としては、グーセフ版のほうが似合っているように思えなくもない。
セルゲーエフ版の大きな魅力は、男性キャラクターたちが踊りでも演技でも大活躍するところだ。彼らが剣や銃を携えて踊ったり戦ったり、迫力のある行動で物語を導いていく。通常、女性が主役の古典バレエでは、こういう構成は珍しい。
また、ひとりひとりのキャラクター設定がはっきりしているために、ストーリーがわかりやすい。海賊でありながら誠実な好青年コンラッド(イーサン・スティーフェル)、こずるくて頭の回るランケデム(ウラジーミル・マラーホフ)、気性の荒い悪役ビルバント(ホアキン・デ・ルース)、控えめで主人に忠実なアリ(アンヘル・コレーラ)、コンラッドに似合いのヒロイン、メドーラ(ジュリー・ケント)、世慣れたギュリナーラ(パロマ・ヘレーラ)。特にコンラッドは踊りの見せ場が多く、主役としての存在感が抜群だ。逆にアリは、第2幕のメドーラ、コンラッドとのパ・ド・トロワでおなじみのヴァリエーションとコーダを披露する以外、踊りの面ではあまり目立たないが、DVDではコレーラが超絶技巧で強烈な印象を残す。マラーホフ演じるランケデムは、パシャとのコミカルなやりとりと、うっとりするようなテクニックの踊りで燦然と光り輝いている。
もちろん女性陣にも見せ場がある。第1幕の3人娘(ひとりはジリアン・マーフィー)の踊りと第3幕の花園の踊りで、プティパ作品らしい端正で華やかな古典の踊りを堪能させてくれる。
マーフィー
こうしてみるとこの《海賊》、男女ともに陽気なテクニシャンぞろいのABTに実にぴったりの、見応え十分の快作だ。アメリカで人気の演目というのが納得できる。来日公演では毎回キャストが交替するので、何パターンもの《海賊》が楽しめそうだ。(R)
2008年07月03日
DVDで観る《海賊》
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