2008年06月17日

DVDで観るマッケンジー版《白鳥の湖》

swanlake_DVD.jpg収録:2005年2月、ワシントンDCのケネディ・センターにて

 今回の来日公演で上演される、芸術監督ケヴィン・マッケンジーが2000年に発表した《白鳥の湖》は、伝統的なプティパ/イワノフ版の要所要所に独自の演出を加えた力作だ。そこに一貫しているのは、物語を合理的に進め、わかりやすく伝えようという工夫。たとえば、プロローグには美しい娘オデットが悪魔ロットバルトによって白鳥に変えられる場面を挿入し、第1幕では王子の友人ベンノと女友だちのパ・ド・トロワ、王子のパ・ド・ドゥと華やかな踊りを続けて王子の享楽的な生活を示したあと、憂いに満ちた対照的なソロで彼の満たされない心を表している。

 そして、悪魔ロットバルトがこの版の陰の主役ともいえる活躍を見せることが目を引く。オデットとオディールをひとりのバレリーナが演じるのとは逆に、ここではロットバルトをふたりのダンサーが演じる。悪魔の本性を表す場面では『スターウォーズ』の悪役かバレエ《ワルプルギスの夜》の悪魔かといった、角の生えたおぞましい魔物として登場し、オデットや王妃に近づくときには、《ライモンダ》のサラセンの騎士アブデラフマンのような、濃いフェロモン男に変身して、女性の警戒心を失わせる。第3幕ではずうずうしく王妃の隣に座り、堂々とソロまで披露する。王妃をうまく惑わして、王子のオディールへの求婚をすんなりと認めさせてしまうのだ。

 エンターテインメント性豊かな演出には見所が多く楽しめるが、さらに際だっているのが踊り手の熱演だ。オデット/オディールのジリアン・マーフィーは、はかなげな美貌に繊細な表現、強靱なテクニックを兼ね備え、王子のアンヘル・コレーラは抜きん出たテクニックは当然として、感情表現の豊かな演技がすばらしい。ラテン系髭面ロットバルトのマルセロ・ゴメスはダークな魅力全開で、第3幕のソロは圧巻。第3幕では各国の踊りも見応えがあり、中でもカルロス・ロペスとクレイグ・サルステインによる〈ナポリの踊り〉は、超絶技巧の連続で息をつく間もないほどみごとだ。
maphy_swan.jpg
ジリアン・マーフィー
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 そして、バレエ界の大御所がふたり、舞台に花を添えていることにも注目したい。1960年代に英国ロイヤル・バレエで活躍し、ABTでバレエ・ミストレスを務めていたジョージナ・パーキンソンが王妃、1914年生まれで'30年代からバレエ・リュス・ド・モンテカルロ、英国ロイヤル・バレエなどのスターだったフレデリック・フランクリンが王子の家庭教師ヴォルフガングを演じている。過去にもこういった大ベテランの演技が財産として蓄えられ、バレエ団の歴史に厚みを加えてきたのだろう。ABTが現代的でありながら、長い歴史に支えられた団体であることを再認識させられる。(R)

posted by JAPAN ARTS at 10:55| DVDで観るABT | 更新情報をチェックする

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